逸翁美術館「THE 書 ~数寄者が集めた古筆、お見せします~」を訪れて

池田市は大阪郊外の小さな町ですが、「逸翁美術館」という美術館があります。
阪急電鉄グループの創業者である小林一三氏が収集した美術品や工芸品を収蔵していて、その名は小林氏の雅号「逸翁」にちなんでいます。
池田市に引っ越してきてからすでに10年、その存在を知りながら今まで訪れたことがなかったのですが、今日時間ができたので展覧会に訪問してきました。

今、逸翁美術館では開館60周年記念として1年間にわたって開催される一連の展覧会の第一幕として「THE 書 ~数寄者が集めた古筆、お見せします~」が開催されています。


何年か前に建て替えられたはずの建物はシンプルながら洗練された印象です。

今回は45点の書が展示されており、重要文化財に指定されているものが4点、重要美術品に指定されているものも7点含まれています。

古筆というのは平安~鎌倉期にかけての、おもにかな文字の名筆を指すそうです。
こうした時期の書はおもに巻物や書籍・冊子の形態だったわけですが、後の時代にはこれらを切って掛け物にして茶の席に飾ることが流行ったそうで、今回展示されていたものも大部分は掛け物の形態になっていました。
こうした元の巻物や書籍を切ったものを「切」といい、古筆の切を「古筆切」と呼ぶとのこと。

巻子本や冊子本など完全な形で伝来した古筆 (奈良~室町時代のすぐれた書。特に和様の書や,かな書きのもの) を,掛軸仕立てにしたり,手鑑に張ったりする目的で切断したもの。桃山時代から江戸時代にかけ茶道の流行に伴い古筆が愛好され,需要が多かった。切断された断簡は内容,地名,所蔵者名にちなんで「万葉切」「高野切」「本阿弥切」などと称した。(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典)

こうした古筆切はやはり能筆家の書の人気が高かったようで、展示されているものでも三蹟の一人である藤原行成や西行といった高名な能筆家の筆とされるものの、研究の結果もっと後の時代のものと判明しているというものも多くみられました。おそらくはこうした高名な能筆家の筆であるということが一種のステータスであったため、それらの筆であるということにされたものも多くあるのでしょう。

とはいえ、そうした高名な能筆家のものではなくても優れた書は多くあるわけで、展示されているものはそれぞれに特徴はありますが、いずれも流れるような運筆を楽しむことができました。

また、こうした古筆切の書は文字の配置が巧みで、原稿用紙のマスに文字を置いていくような配置ではなく、その文字の配置が構図をなしているようなものも多く、絵画的な空間の美を楽しむことができました。
書かれている紙も藍を漉き込んで色をつけたり、雲母を表面に刷っていたりと、いわゆるキャンバスにも凝ったものが多く、こうした古筆切は文字とキャンバスの装飾とのコンビネーションも見どころとなります。
そういう目で見ると、ただの文字ではなく、ひとつの空間芸術として茶の湯の一部を構成するものとして珍重されていたというのもうなづけます。

こじんまりとした展覧会ですが、人も少なく、じっくりと楽しむことができました。
第二幕以降も時間を作って訪れたいと思いました。

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